昨年亡くなった農家のCさん(65歳)は生前、相続税対策のため孫のFちゃん(5歳)と養子縁組をしました。
これにより法定相続人は奥さんのDさん(68歳)、Cさんの実子で孫のお父さんでもある長男Hさん(40歳)と嫁いでいる長女Jさん(39歳)そして養子となった孫のFちゃんです。
ちなみに嫁いだJさん以外は同居でした。本来孫であるFちゃんが養子となったので法定相続人は3人から4人となりました。
遺産分割協議がまとまらずついにHさんは弁護士を入れました。弁護士を入れるということは宣戦布告イコール兄弟の縁切りを意味します。
それから10年たった今も長男Hさんと長女Jさんは口も利きません。
お互い、陰で悪口を言い合っています。私も双方からよく聞かされますが、返答に困ります。
【メッセージ】
農家の方が相続税対策のため孫を養子にとることは少なくありません。相続人の頭数が多いほど控除額が増えるわけですから。
Cさんとすればすこしでも相続税を減らしてあげようと思ってしたことが、こんな状況を招いてしまったとはさぞかし 残念に思っていることだと思います。
一昔前なら「親の財産は家を守る長男が相続するもの」とばかりにモメなかったでしょう。
でも時代はめまぐるしく変化しています。「十年一昔」いや今や「三年あるいは一年一昔」かもしれません。
自分の権利を主張する個人主義の浸透ぶりは脅威です。「それは都会の話でまだ田舎は別」と安穏としていられるのでしょうか。
長男のHさんは跡継ぎということでかなり多めの相続分を主張しました。Jさんの主張は法定相続分どおりです。
しかしそれどころかJさんにしてみればFちゃんが養子縁組してしまったことで、相続分が4分の1から6分の1になってしまいました。
事実上そのFちゃんの分も父であるHさんのものとなったのも同然です。
【遺言力】
まずとにかく遺言を残すことです。たとえ農家であっても、たとえ田舎であっても、たとえ古い慣習がある地域であってもです。
家を継ぐ長男に全財産を相続させるつもりならなおさらです。付言事項をたっぷりと使ってほかの相続人に理解してもらうようにあなたの想いを伝えてください。
しかし「長男に全財産を相続させる」のは危険ですから、避けたほうがいいでしょう。
もちろん相続税対策も大切ですし、自分の財産なのですから法定相続分きっちり分ける必要もないので、自分の好きなように分けてください。
ただ、少しだけ視野を広げて一人一人の相続人の立場に立ってゆっくりと考えながら遺言を書くことをおすすめします。