認知症に備えたい

全国で160万人が認知症で65歳以上の6,3%です。年齢とともに増え85歳以上では4人に一人です。
もしあなたが次のような事態になった時、自分を守るすべありますか?

高齢や病気のために寝たきりになる。
認知症で家族の顔が分からなくなる。

死後のこともそうだけど生きているときのことももちろん大事です。また自分がそんな状態になった時、家族や周りの人が自分に対してどのような態度をとるのかも気になるところでしょう。
もし自分が想像しているような十分な介護をしてくれなかったら?あるいは判断能力の低下をいいことに誰かに財産を盗られたり悪質な業者に騙されたりしたら?

任意後見に関する用語の説明

法定後見とは?

すでに本人が認知症になっているときに、申し立てにより家庭裁判所が適切な保護者を選び、本人を保護するための制度。
選ばれた保護者(成年後見人・保佐人・補助人)は、本人の希望を尊重しながら、財産管理や身の回りのお手伝いをします。
これ以降、もし例えば悪徳商法による契約を結んだ場合でも保護者がそれを取り消すことが出来ます。

任意後見とは?

本人がまだ元気なうちに、将来心ならずとも認知症になったときに備えて、自分の好きな人に任意後見人になってもらい、自分の希望する生活、療養看護および財産の管理に関してのお手伝いをしてもらう契約を公正証書でしておくものです。
その後、もし認知症になったら、任意後見監督人を家庭裁判所で選任してもらい、後見がスタートします。
ただ任意後見人には取消権はありません。

財産管理等委任契約とは?

財産の管理、金融機関との取引、年金の受取り、生活費の支払、権利書や通帳・印鑑カードの保管、医療費の支払や管理等を委任する契約です。
契約の相手は信頼できる人であれば、身内でも、弁護士、司法書士などの専門家でもいいです。
 
この契約は通常任意後見契約と合わせて元気なうちに結んでおきます。
すると、身体能力が衰えた時(判断能力はあるが認知症は始まっていない)に、財産管理等委任契約が効き、財産管理を任せ、もし認知症が始まったらその財産管理等委任契約が終わると同時に元気なうちに結んでおいた任意後見契約がスタートして、ひきつづき財産管理、身上監護が任せられるという流れになります。
 
また、金融機関等では本人確認法施行以来、ご家族でも預貯金が簡単に引き出せないのが現状です。成年後見制度をご利用した場合は、各金融機関へその届出をする必要があります。
体調不良や急な入院等の手続きや支払いなどに備えられる財産管理委任契約をしておき、その後任意後見契約も検討する事をお薦めしています。
 
成年後見制度をご利用する手続きは、その準備や手続きで時間が掛り、家庭裁判所にての審判によりますので、緊急の入院等では対応しきれません。転ばぬ先の杖として財産管理委任契約と任意後見契約の併用をお薦めしています。

見守り契約とは?

任意後見契約を結んだからといって本人にこの先いつ認知症が始まるかを見守っておかないと、認知症になっているのにもかかわらずそれに気づかないため任意後見契約がスタートする時期が遅れ、認知症になっている本人を保護できない空白期間が生まれてしまいます。
その空白期間に何かあったら任意後見契約を結んでおいた意味が損なわれてしまいます。
 
そういったことを防ぐために信頼できる第三者と「見守り契約」を結んでおくのです。内容は、例えば何か月に1回受任者に電話をしてもらったり、年に何回かは直接訪問してもらったりして、意思の疎通を図り、本人の生活状況や健康状態を把握してもらいます。

事例と対策

事例1

68歳のAさんは最近腰痛がひどくなり、そのせいか、外出するのもおっくうになり、次男に通帳を渡して日用品の買い出しを頼みました。
しかしその後、次男は日用品を買うのに使う以外にもお金を勝手におろして使い込んでいたことに気づきました。

【対策】

第三者である専門家(弁護士、司法書士、行政書士等)に財産管理等を委任する契約を結ぶ方法があります。
あるいは身内でも信頼できる他の子供がいればその子供と契約を結ぶ方法もあります。たとえ身内同士でも契約(なるべく公正証書にする)を結んでおいた方がよいでしょう。
さらに将来の認知症の発症に備えて任意後見契約も同時に結ぶことをお勧めします。


事例2

妻に先立たれた65歳のBさんは認知症を発症しました。当初は長男の嫁が献身的に介護していましたが、やがてBさんの症状が進行するにつれ疲弊し、介護を放棄してしまいました。長男も仕事を言い訳に見て見ぬふりでした。
Bさんはかつて「○△の人たちすごく感じがいいので、もしボケたら○△の施設に入りたい。」という希望を持っていたが認知症が進んでしまった今となってはその思いを伝えることもできません。

【対策】

もう手遅れですが、認知症が発症する前の元気な時に任意後見契約を結んでいれば、こんなことにはならなかったでしょう。
そうしていればもちろん希望である「○△の施設に入りたい」というのも契約に盛り込めました。


事例3

ある地域の民生委員さんが相談に来られました。
Cさんという独り暮らしの70歳の女性の家から不快なにおいがするという苦情があり見に行ったところ、家の中はごみというごみが散乱し、野良猫、ゴキブリ、ねずみが運動会をしていました。
でも肝心のCさん本人は全然平気のようです。介護保険でヘルパーさんに掃除、食事の用意をしてもらったり、風呂に入れてもらったりすればいいはずなのに、本人は頑として受け付けません。預金通帳や、お金も部屋のあちこちに落ちてます。

【対策】

おそらく認知症を発症していますので、このままですと悪質な訪問販売業者に騙されたりする恐れもありますし、衛生面からもCさんの健康状態への影響が心配されます。
よって法定後見の申し立てをして家庭裁判所に後見人を選任してもらいます。
その後見人が裁判所の監督の下、Cさんの身上面、財産面の保護、管理をします。ただこのケースも元気なうちに任意後見契約を結んでおく必要があったでしょう。


事例4

独り暮らしの72歳のDさんは昔から上品で聡明な女性でそれでいて、4人の子供を厳しくも立派に育て上げたたくましき母でした。しかし夫を亡くしてから次第に様子がおかしくなってきました。
買い物の帰り道に迷ったり、食事の支度も面倒といってやらなくなったり、「物が盗られた!」と騒ぎ立てることがたびたび見られるようになりました。

子どもたちはDさんとの同居は選ばず、低料金を考えて狭くて汚いとあまり地元でも評判の良くない施設に預けることに決めました。

夫ともに苦労して築いた広い自宅や相応の預金もあるDさんからしてみれば、きちんとした有料老人ホームにでも十分入れるはずなのに、認知症が進んでしまった今となっては自分の財産を自分のために好きなように使う能力も失われています。
子供たちの悪環境の施設入所の提案を断るすべもありません。

【対策】

元気なうちに任意後見契約を結んでおく必要がありました。
「もし認知症になったらこの人に面倒を見てもらいたい」という人に任意後見人になってもらい、介護の方法などの希望も契約に盛り込むことも可能だったのです。


事例5

リウマチを患っていた65歳の女性Fさんはほどなく車いすでの生活を強いられるようになりました。
それ以降は同居している長女に預金通帳と印鑑を預け、公共料金の支払い、年金の引出し等、財産管理を任せていました。

Fさんと長女は話し合い、車いすで生活しやすいように自宅をバリアフリー仕様に改築することにしました。Fさんは改築費に充てるため、所有していた一筆の土地を売りました。
改築したおかげでFさんも、面倒をみる長女のほうも非常に動きやすく快適になりました。

しばらくたったある日、長女は妹の家に呼ばれたので行くとそこには弟2人も揃っていました。開口一番、「姉さん、母さんの財産を勝手に好き放題使っているだろう。自宅もリフォームしちゃって、年金だって勝手に使ってるらしいじゃないか!」
「すべて母さんのために母さんと話し合ってやってることなのよ!」長女がいくら事情を話してもわかってくれません。

【対策】

財産管理等委任契約を結んでおくとよかったでしょう。
その契約書を見せるのと見せないとでは兄弟たちの受ける印象もちがいます。しかも公正証書にしておくとさらに強力な印象を与えます。

公正証書にするもう一つの理由は金融機関対策です。金融機関によっては受任者が本人に頼まれて本人名義の預金を引き出そうとした場合、公正証書にした財産管理等委任契約書がないと、拒否することもあるからです。


事例6

「自宅をリフォームしたから見においで」と69歳の一人暮らしの母親Hさんの家に久々に遊びに行った娘のJさん。
「リフォームってどこ?」「わからないの?ほらここよ。最新式よ!」と指されたのは勝手口の扉。
たしかに隙間風が吹いていた以前の扉は新しい扉に付け変わっていたけど、とりたてて特別なもととも思えずどこにでもありそうなものだった。

「あとは?」「そこだけよ。」「で、いくらしたの?」「150万よ。」「......(絶句)」
よくよく聞いてみるとそれだけではなく、訪問販売の人を家に上げては浄水器、羽毛布団、着物などあるわあるわ、次々に契約していました。
貯金通帳を見ると、1000万くらいあったはずがもう100万を切っていました。

【対策】

認知症が始まっているかもしれません。症状が進んでいれば法定後見の申し立てを家庭裁判所にします。

裁判所が選任した後見人が裁判所の監督のもとHさんに代わって財産管理や身上監護をします。
法定後見人には取消権という強力な権限がありますので、もしこの先、悪質な訪問販売に騙されてもその契約を取り消すことが出来ます。

ただ後見人選任前のものは、後見人は取り消せません。売買契約時に本人が認知症であったことを証明し、契約締結能力が無いゆえの契約無効を主張するしかありません。
しかし実際認知症であったことを証明することは難しいし、相手もおいそれとは応じませんので裁判になる可能性もあり費用や時間もかかってしまい現実は難しいところです。


事例については登場人物はアルファベットにしてあります。さらにその他の事情も個人の特定につながる恐れのあるものについては必要に応じて変更させて頂きました。

事例はいかがでしたでしょうか?
再度、みなさんにお尋ねします。

全国で160万人が認知症で65歳以上の6,3%です。年齢とともに増え85歳以上では4人に一人です。
もしあなたが次のような事態になった時、自分を守るすべありますか?
高齢や病気のために寝たきりになる。
認知症で家族の顔が分からなくなる。
死後のこともそうだけど生きているときのことももちろん大事です。また自分がそんな状態になった時、家族や周りの人が自分に対してどのような態度をとるのかも気になるところでしょう。
もし自分が想像しているような十分な介護をしてくれなかったら?あるいは判断能力の低下をいいことに誰かに財産を盗られたり悪質な業者に騙されたりしたら。

じゃあどうすればよいのか?

Aさん「とりあえず年金ももらえるし、コツコツためてきた貯金もあるし、これでなんとか子供には世話にならずに暮らせるだろう。」
Bさん「うちの子はああ見えて親思いのいい子だから、もしものときは面倒見てくれるだろう。」
もしあなたもAさんやBさんと同じように考えているとしたら非常に危険です。
「うちの子に限って」誰だって自分の子供だけはなんだかんだいって親孝行な子供であってほしいですよね。そう信じたいはずです。
でも、子供はあてに出来ませんし、あてにしたらダメです。
一歩外に出れば会社ではコマネズミのように毎日こき使われ、リストラの恐怖に脅え、家に帰れば子育てに悩み、多額の住宅ローンと教育費の負担にあえいでいます。子供たちだって必死の思いで生活しています。
そんな中、たとえ自分の親だからといって認知症が出たり、下の世話が必要になったから面倒見ろというのは酷だと言わざるを得ません。
だからといって親不幸な子供と言えるでしょうか。「見たくても見られない」これが現実なんです。

Aさんの場合ももし認知症が始まったらどうなってしまうんでしょう。
いくら年金や預貯金があっても、もう自分の力では下ろすことすら出来なくなり、自分のために使うことが出来なくなってしまいます。

最近はあちこちでボケ予防のための運動、体操、ゲーム、勉強会などさまざまな活動をしている、中高年の方の集まりやサークルを見かけます。
とても素晴らしいことだと思います。私のセミナーに参加される方の中にも、年齢を聞いてこっちが驚いてひっくり返るくらい元気で若々しいお年寄りやバイタリティあふれる高齢者の方もたくさんいらっしゃいます。
私はそのような元気な中高年の方を見ると何かこちらがパワーをもらったみたいで嬉しく感じる一方で、「万が一の時のことも備えといてね!」と思わず声をかけたくなる衝動に駆られます。

やっぱり誰でも自分の足腰が衰えてきて動けなくなったり認知症が出た時の事は考えたくないに決まっています。
「今日も無事過ごせたから明日もあさってもその先もずっとずっと..無事過ごせるだろう。」そんな風に思うことは普通のことだと思います。

でも元気なうちにこそ転ばぬ先の杖を準備しておくんです。今ならまだあなたが歩んできた人生にふさわしい老後を生きることも可能です。
ぜひ自分の老後は自分で用意して下さい。
そしてあとは思う存分第2の青春を謳歌してください!

* 参考文献「老いじたくは財産管理から」中山二基子著 文春文庫

任意後見計画のパターン

「今はまだ体力にも自信があるし、自分で財産管理できるし、他人にはまだ干渉してほしくないんだけど将来の体力の衰えには備えておきたい」というあなた

元気な今のうちに、財産管理等委任契約を結んでおきます。但し、スタートはさせません。
発効自体は、将来、実際に体力の衰えを感じ、「自分じゃ財産管理はもうムリ」となったときにお互いの契約スタートの同意を確認しはじめて契約をスタートさせます。

「今はまだ心身ともに自信があるし、自分で財産管理できるし、他人にはまだ干渉してほしくないんだけど将来の認知症になった場合に備えておきたい」というあなた

この場合、「将来型任意後見契約」という方法をとります。
元気な今のうちに、任意後見契約を結んでおきます。
将来、認知症が始まったら任意後見契約をスタート(家裁に任意後見監督人の選任申し立てが必要)させます。この場合、「見守り契約」も同時に結び見守り契約だけスタートさせる場合が多いです。

「体力も衰えてきたし、もう今すぐにでも財産管理をしてほしい。」というあなた

これは「移行型任意後見契約」と言い、実務上最も広く行われている方法をとります。
財産管理等委任契約と任意後見契約の双方を結びます。そしてすぐに財産管理等委任契約をスタートさせます。
その後将来、判断能力の衰えたときに財産管理等委任契約を終了させ任意後見契約のほうをスタートさせます。

「最近、帰る道を迷うようになってきたし、家族の名前が思い出しにくくなってきた。」というあなた

認知症が始まっているかもしれません。
軽度の認知症であれば、任意後見契約締結も可能な場合がありますので医師の診断を仰ぎ、契約締結能力があると判断されれば任意後見契約を結び、すぐさま、スタートできるよう家裁に任意後見監督人の選任を申し立てします。
これを「即効型任意後見契約」といいます。もし契約締結能力が既に失われていると判断された場合は、任意後見契約は結ぶことはできず、法定後見の申し立てをすることになります。

死後事務委任契約」も財産管理等委任契約や任意後見契約とともに元気なうちに結んでおくことをお勧めします。

なぜなら任意後見契約がスタートされたのち、心ならずとも本人が亡くなった時は今まで任意後見人が行っていた財産管理事務を相続人あるいは遺言執行人などに引き継がねばなりません。

そこで「死後事務委任契約」がしてある場合ですと、本人の財産管理事務を実際にやってきて、よく分かっている任意後見人がそのまま身辺整理や葬儀の手配、相続財産の引継ぎなどの一連の「死後の事務」を行うことができ、非常にスムーズです。

上記はあくまで例ですのでご本人の想いに合うように考えていきます。